末梢神経外科X神経科学**医学書院/978-4-260-06537-5/9784260065375**
Brain Science Based Hand Surgery
なぜ再建しても機能は回復しないのか
発行 2026年4月
判型:B5判 216頁
ISBN 978-4-260-06537-5
「手術は成功したのに動かない」――脳機能の変化という視点から手外科を読み解く
「手術は成功し治療は上手くいった。でも思いどおりに動かない」整形外科診療の最大のテーマを、手外科・末梢神経外科のエキスパートが「末梢神経障害は脳機能の変化が引き起こす」とする視点から解きほぐす。筆者の豊富な臨床経験を脳機能の変化から捉え直し、胎生期から老年期まで人生の各ステージにおける最適な治療のヒントを丁寧に解説する。整形外科疾患の機能回復に、脳の再学習と運動器システム制御が大きな役割を果たす。
【目 次】
I 中枢神経の視点から再考する末梢神経外科
1 脳機能から末梢神経外科を再考する
末梢神経の異常と脳機能の変化が不可解な病態を引き起こす
CRPS患者の拘縮と運動制御異常
末梢神経系と中枢神経系の相互依存
手根管症候群が誘発する脳機能の変化
神経ネットワークを俯瞰して末梢神経科学の新たな地平線を切り拓く
Column|局所性ジストニア治療の新展開
2 末梢神経損傷の機能回復で何が起こっているのか
高次脳機能が関わる運動の制御・学習・記憶の仕組み
末梢神経修復とは中枢神経系に再学習させること
3 胎児期の末梢神経損傷
胎児期の末梢神経損傷の機能予後はなぜ成人より劣るのか
胎児期の末梢神経損傷の臨床像
[症例1] 先天性絞扼輪症候群による正中・尺骨・橈骨神経損傷
[症例2] 分娩2日前に受傷した医原性胎児期正中神経損傷
Column|先天性絞扼輪症候群に対する新たな治療法の登場
4 新生児期の末梢神経損傷
新生児期における末梢神経損傷の臨床像
Column|感覚の主観的評価法
腕神経叢分娩麻痺への脳の関与を示す臨床的エビデンス
[症例1] 節後不完全麻痺と長期回復
[症例2] 遅発性肩機能障害を伴うC5-6型麻痺
[症例3] 全型腕神経叢分娩麻痺と筋皮神経ブロックの役割
[症例4] Klumpke麻痺と機能再建
Column|腕神経叢分娩麻痺の外科的選択肢:メタ分析
5 小児期の末梢神経損傷
なぜ小児期の末梢神経損傷の治療成績は良好なのか
小児期における末梢神経損傷の臨床像
Column|脳の可塑性は臨界期を過ぎると大きく低下する
[症例1] 不用意なガラス片抜去により発生した医原性橈骨神経損傷
[症例2] 不用意な骨折整復操作により発生した医原性神経損傷
6 思春期の末梢神経損傷
思春期末梢神経損傷の臨床像
[症例1] 正中神経損傷を見落とされ,長期間放置された外傷性神経腫に対する外科的治療
[症例2] 腕神経叢分娩麻痺例で,骨折を契機に遅発性神経障害性疼痛を発症した例
[症例3] 長期経過後に実施した機能再建手術を契機に麻痺筋の回復が進行した肩甲上神経・腋窩神経損傷
7 医原性神経損傷から学ぶ成人期末梢神経損傷
なぜ医原性神経損傷を取り上げるのか
医原性神経損傷の臨床像
[症例1] 不用意な神経移行術による neurostenalgia
[症例2] 鏡視下手根管開放術に際して正中神経を完全切断された例
[症例3] 不適切な初期治療を受けた前腕レベルでの複数神経損傷
[症例4] リンパ節生検後に生じた肩の痛みと機能障害
[症例5] 医原性副神経損傷後に発症した局所性ジストニア
[症例6] 関節鏡下滑膜切除術に伴い発生した橈骨神経麻痺
[症例7] 軟部腫瘍切除後に呈した橈骨神経麻痺
[症例8] 紹介の大幅な遅れにより機能回復が遷延した医原性橈骨神経損傷
[症例9] 甲状腺乳頭がん切除術後に発生した腕神経叢損傷
II 脳の可塑性を支えるシステム神経科学
1 大脳皮質は末梢神経と呼応して発達する
胎生期における神経系発生の基本プロセス
2 予測符号化モデル
予測符号化モデル(PCM):脳は「予測機」
脳の階層構造と予測誤差の伝達
能動的内受容感覚予測
予測符号化モデルの応用と展望
3 脳は感覚を集めて再構築する
私たちの脳では感覚によって現実を再構築している
巧妙な感覚認知の仕組み
「touch & guess」
4 アロスタシス
Efficient designとは何か
ヒトのデザインを生み出した進化上の4つのエポック
5 エピソード記憶のメカニズム
エピソード記憶がなぜ重要なのか
エピソード記憶が形成される仕組み
「記憶痕跡」というメカニズム
6 巧緻運動の神経基盤
上肢制御の神経メカニズム:複雑な皮質ネットワークの関与を学ぶ
運動制御における主要な脳領域:視覚入力から皮質脊髄路への出力まで
高解像度の視覚認識のための戦略
「Direct cortico-motoneuronal pathway」により巧緻運動が生み出されている
手の巧緻性回復の経路は1つではない
小脳における運動学習の仕組み
小脳皮質の神経回路と長期抑圧
7 軸索発芽と脳の可塑性
軸索発芽による機能回復のメカニズム
小脳と連合野は2歳近くまで発達する
臨界期における神経ネットワークの変化
臨界期の終了とともに脳の可塑性は低下し,機能障害が遺残する
8 機能的ネットワークとグローバルネットワークの関係
脳機能マッピングの進化
rs-fMRIによる機能的パーセレーション技術の登場と発展
脳磁計による解析とfMRIの補完関係
機能的ネットワークとグローバルネットワーク
健康な加齢(healthy aging)に伴う脳ネットワークの変化
9 神経可塑性と systems neuroimmunology
神経可塑性の概念の変遷と多様性
発達段階による神経の違い
神経系と免疫系を統合的に扱う systems neuroimmunology
思春期の脳の臨界期と神経可塑性
10 恒常的神経可塑性
脳の学習能力とニューロンネットワーク
機能的神経可塑性と構造的神経可塑性の区別
Hebbの法則の限界と恒常的神経可塑性の重要性
恒常的神経可塑性は素朴な気づきをきっかけに発見された
ネットワークの恒常性は多段階で維持されている
恒常的神経可塑性と睡眠の関係
11 臨界期の再開と治療機会の窓
臨界期と構造的神経可塑性:plasticity brakeを止めれば臨界期は再開できる
なぜ脳の一部では構造的神経可塑性が維持されているのか:アロスタシスの視点から考える
神経損傷による臨界期の再開:免疫系と神経系の応答がカギ
構造的神経可塑性のリスク:不適応な可塑性の可能性
脳卒中後からの機能回復:「治療機会の窓」の存在を知る